心内は信用していないのに… という胸苦しさを抱きながらも、彼女らの存在を足蹴になどはできない。
一方で、手を差し伸べてくれるミシュアルの存在には、全力で拒絶反応を示している。
己の行動がどれほど矛盾に満ちているのか、だが瑠駆真は気付いていない。
美鶴―――
そう、今の彼には美鶴がすべて。
どうすれば、もっと美鶴に近づけるのか? どうすれば美鶴に笑顔を取り戻すことができるのか?
美鶴があれほどまでに捻くれてしまった原因。その原因を排除すれば?
―――― 田代里奈。そして澤村。
彼女の心内には、まだこの二人が居座っている。特に里奈。里奈の裏切りが大きい。
僕は決して裏切らない。
君を裏切ったり、突き放したりなんてしないよ。
でもどうやってそれを彼女に伝えればよいのか、瑠駆真には見当もつかない。
いつのまにか両手で顔を覆い、肘をついて項垂れる。
―――― 無力だ。
下卑た声に唇を噛み締めた時だった。
「一人か?」
今、一番聞きたくない声。
だが無視もできず、顔をあげる。視線の先で、小さな瞳がつまらなさそうに瞬いた。
少し不機嫌そうな声。
「美鶴は?」
「いないよ」
瑠駆真の言葉に、聡は片眉をあげる。
「いない?」
聞き返しに億劫そうなため息。
「ずっといないよ」
「何じゃ そりゃ?」
「いないんだよ」
「見りゃわかるよ」
同じ言葉をオウムのように繰り返す瑠駆真にムッとし、中へと入ってくる。
「どこ行ったんだ?」
「さぁね」
とても好意的とは思えない瑠駆真。聡は黙って見下ろす。
残暑厳しい生暖かい風。
午後の陽射しはまだ強く、入り込む熱がドンヨリと重い。
自分を見下ろす剣呑な視線。原因は、暑さのせいだろうか? 瑠駆真の態度だろうか?
あぁ そうか
同級生の甘ったるい声が、耳にジンと木霊する。
「金本くん、三組の大迫美鶴と大喧嘩したそうよ」
喧嘩したってのは、本当らしいな。
途端に湧き上がる優越感。
瑠駆真は左手で頬杖をつき、大儀そうに相手を見上げた。まったくもって、不遜な態度。
一方の聡も、瞳を細めて射抜くように見下ろす。
「新学期早々、独り占めかよ」
先に口を開いたのは聡。両手をズボンのポケットに入れ、腰を折り、ぐっと顔を近づける。
「いぃ度胸じゃねぇ〜か」
低く、低く威嚇するような声。
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